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最高裁判所第二小法廷 昭和25年(れ)258号 判決

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人芳谷今造の上告趣意第一点について。

しかし原判決挙示の証拠によって原判示の如く海産物仲立業を営んでいる被告人の仲介により所論賣売契約の成立した事実を認定できるのであるから論旨の(イ)は原審が適法にした事実認定の非難に帰着し適法の上告理由とならない。また仲立人はその媒介した行為につき当事者のために支払その他の給付を受けることはできないが別段の意思表示又は慣習があるときは支払その他の給付を受けることができることは商法第五四四条但書の明定しているところである。本件において原判決の確定した事実は被告人の仲介により一宮水産市場株式会社と北海道水産物株式会社との間に所論売買契約が成立したので一宮水産市場株式会社に送金方を求めたが送金がないので同会社の集出荷員杉浦吉次が愛知縣の本社まで帰って代金を持って来るが、若し自分の留守中に本社から代金を送って来たときは自分に代ってこれを受取って北海道水産物株式会社に支払って貰いたいと依頼して杉浦の印鑑等を被告人に預けて小樽市を出発したところそれと入れちがいに一宮水産市場株式会社から住友銀行小樽支店に対し杉浦宛に金百五十万円の送付があったので被告人は前記の委託の趣旨に基いて杉浦のためにこれを受取り保管中内金七十万円を北海道水産物株式会社に支払ったのみでその余の金員八十万円を擅にその頃費消横領したというのであって即ち被告人は買主側の特別の意思表示によってその仲介した売買契約の代金を受取りこれを保管していたものであるから、かかる場合にはその代金の保管は仲立人の業務上の保管と解すべきである。然らば原判決が被告人の所為に対し業務上横領罪をもって問擬したことは正当であって論旨の(ロ)はその理由がない。

同第二点について。

しかし原判決をみると「その余の金員八十万円を擅にその頃函館市等で自己の事業資金等に費消横領したものである」と記載してあって「その頃」というのは被告人が百五十万円を受取つた昭和二三年四月二四日頃を指すものであることは判文上明かであるから原判決は犯罪時の記載を欠如しているものではない。論旨はその理由がない。

同第三点について。

しかし原判決の引用した証拠中には杉浦吉次に対する司法警察官の告訴補充調書と記載してあって所論のように被告人に対する司法警察官の告訴補充調書とは記載してないのである。そして右杉浦吉次に対する司法警察官の告訴補充調書は記録に存在するのであるから論旨は理由がない。

よって刑訴施行法第二条旧刑訴第四四六条により主文のとおり判決する。

右は裁判官全員一致の意見である。

(裁判長裁判官 塚崎直義 裁判官 霜山精一 裁判官 栗山茂 裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎)

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